映画「ALWAYS 三丁目の夕日'64」評


【映画紹介】
高度経済成長期の東京を描いた漫画「三丁目の夕日」の実写映画シリーズの第3弾。今回は東京オリンピック開催年の1964年にスポットをあてる。ヒロミと夫婦になった茶川は新人作家に人気を奪われピンチに陥っており、茶川の家に身を寄せる淳之介は、東大受験に向けて猛勉強をすすめているが、小説家になる夢を捨てきれずにいた。一方、鈴木オートで働く六子は医師である菊池に密かな思いを寄せていた。監督・脚本・VFXを担うのはこれまでの作品同様に山崎貴古沢良太が今作も脚本として参加、キャストも吉岡秀隆須賀健太小雪堤真一堀北真希薬師丸ひろ子などシリーズおなじみのメンバーが顔をそろえた。
【予告動画】

ドラマ発信でもない映画としてはシリーズ化されている「ALWAYS」シリーズですが、僕はあまりこの作品を受け入れづらかったんですよね。確かに、昭和の懐かしさを前面に押し出すことで、その世代を生きてきた人たちからすれば感動するし、懐かしさもこみ上げてくるかもしれませんが、「あのころは良かったよね」「なんか今って欠けてるよね」みたいな部分も同時に訴えられているようにもみえて、まだ25歳の人間から言わせてもらえるのならば「知らねぇよ!僕らは生まれたころから、こんな生活環境だったんだよ!大体、ネット文化も高層ビルも作り上げたのはお前らだろ!」みたいな感情も湧き出てしまっていて、面白い面白くない以前に「好きじゃない」作品だったんですね。そんなALWAYSシリーズの新作ということで、いろんな期待を込めて観に行きました。
 2つほど事前におことわりさせていただくと、まず観に行ったのは2Dのほうなので、3Dの臨場感とかを語ることは出来ません。それと原作である漫画「三丁目の夕日」は読んでいません。読む時間がなかったのは否めないのですが、もうALWAYSは原作からはかけ離れた完全に独立したものになってしまっていると考え、原作と比較するのも野暮ったいかなとも思いましたので、過去作との比較はありますが、原作との比較はほぼありません。そしてネタバレいっぱいありますので。
 まず、タイトルどおり舞台は1964年の東京にスポットを当てたもので、東京オリンピック開催で盛り上がるなかで、いろいろ問題をかかえる夕日町の面々というおはなしですが、ちょいちょい出されるこの“64年要素”が物凄い鬱陶しいんですね。たとえば、豆腐を買いにきた子供たちが「シェ〜」っておそ松くんのイヤミのポーズをとるんです。さらに序盤では鈴木オートでカラーテレビを買いましたと、そこで付けたら流れるのがタイミングよく「ひょっこりひょうたん島」とのオープニングだと。もうね、この時点で「あぁ〜、好きじゃない〜」って気分です。もう、「ほら、64年のあのころ思い出したでしょ〜、懐かしいでしょ〜」みたいな。そんなアイテムいちいち出さなくたって昔の日本を舞台にしたお話だってことぐらいわかりますし、まずそういう流行したものを提示しないと、映画を観ている人たちは懐古の情を出すことができないとでも思っているんでしょうね。なぜこんなに1964年的なことにこだわったのかがよくわかりません。
 やはり、シリーズ3本目ということもあって、全員がそれなりに成長しているんですけれど、堀北真希さん演じる六ちゃんが鈴木オートを仕切るようになって、社長である則文にも怒るという描写はいいと思うんですが、訛った喋り方とか芋臭さみたいなのは排除してもよかったんじゃないでしょうか。特に今回から染谷将太さん演じる新しい見習いの子が来ているわけですから、彼にその芋臭さを譲り受けてもらったほうが彼の存在意義もあったと思うんですよね。彼はただの社長の引っ叩かれ役としていたような感じでしたね。
 今回の物語の主軸として、淳之介の夢と、六ちゃんの結婚という2つの物語があるのですが、その2つそれぞれに疑問がありました。
 まず、淳之介の夢として、くわえて茶川には父親との確執があって、茶川は勘当されたと思ってるけど、実は違いましたという、まぁ言ってしまえばベタな展開があるんですけれど。そのときの茶川の部屋の感じというのが、淳之介の部屋にそっくりすぎるから、あとあと茶川がとる行動というのが想定できてしまうんですよね。まず、いくら追い出された家とはいえ、実家に帰ってきて自分の部屋にすら行かないのかという疑問も残りますけれどね。ラストシーンで淳之介を追い出したあとに、実は全部茶沢の計画で、しかもそれは彼の父親が彼にやったことと同じことでした。みたいなほうが良かったんじゃないかな。さらに今回、茶川にライバル作家が出てきて、その正体は淳之介でしたという面白い展開があるんですが、ネタばらしが早すぎてすごい勿体ないなとおもってしまいました。追い出すときに茶川の口から「お前が緑川なんだろう。」とかいえば、観ている我々としては、おぉ〜、そうだったのかぁ〜!って感じになったのになぁ。
 そして六ちゃん。今回菊池という医者が登場して恋をするんですけれど、その菊池がまず六ちゃん勤める鈴木オートに車の修理を依頼するんですけれど、あとでそれはわざと細工して、六ちゃんを呼ぶためのものだったっと告げるシーンがありますが、あれは「そうだったの!?」って思わせたかったのかな?ぶっちゃけ僕は観ていて序盤でわかってしまいましたね。こいつ演技でやってるなって。さっきの淳之介に関するいろんな伏線もそうなんですけれど、製作者側が「ね?驚いたでしょ!」みたいな感じが、全部事前に見させられちゃってるから、本当は驚きたいですが驚けないんですよ。僕らはリアクション芸人じゃないんで。
さらにその菊池が、どうやら女たらし、いわゆるチャラ男らしいという噂が出始めて、実はそれは違いました、すごいいい人でしたみたいな話なんですけれど。だったらなんで六ちゃんとご飯食べにいくとき、サングラスとか、ちょっと派手めな格好とかさせちゃうの?あと看護婦さんの声の掛け方とか、もう少し純朴そうな人にすればいいのに、普通の人なのになんでそんな噂がまわるんだろうみたいな人にすればよかったじゃないですか。あれだとそりゃあそんな噂流されて当然だよ!そして、鈴木オートの夫婦がふたりの結婚を許す条件として、菊池さんが一人前となるまで、鈴木オートで働いてもらうという条件なんですけれど、だったらなんでエンディングのスタッフロールときに二人で菊池の実家にいるわけ?嫁に行っちゃってるじゃん!実家千葉でしょ?とてもあの時代では通える距離じゃないと思うんだけれどな。
というように、あぁ〜、やっぱり映画好きの人からすれば、つまらない作品なんだね。とかここまで読んだ方は思うかもしれませんが、そんなことはありません。過去2作と比べると一番良かったです。その大きな理由が2つあります。
まずは役者勢の演技の質の高さ。特に吉岡秀隆さんと堤真一さんのおふたりは、やっぱりこの人たちって上手いなぁと思いました。特に今回吉岡さん演じた茶川は、過去2作のちょっとオドオドしていてだらしない感じに比べると、ちょっとたくましくなっているというのが、微妙な変化で伝わってきました。特に、隠れてコソコソ小説を書いていた淳之介へ、怒鳴るところとかは、すっかり父親になったような怒り方で、こういう普段怒らないような人が怒ったときって一番恐いよなぁ、っていうのをしっかり感じることが出来ました。それから堤真一さんの鈴木則文はこの作品で一番好きな人物なんですけれど、一番時代の流れに乗っかろうとしてるんだけれど、一番乗れてない人っていうのが、堤さんの挙動不審な顔でわかるんですよね。特に今回はライスシャワーを投げるときの戸惑いっぷりとか、あそこはクスクス笑ってしまいました。さらに今回はコメディ的ポジションだけじゃなくて、予告の段階でも何度も観た森山未来)に対する「殺すぞ」発言もその前後の堤さんの味わい深い演技が加わっていたので、とてもよかったと思います。目の動き一つひとつにも工夫をされている感じがしましたね。
もうひとつが、これは山崎貴さんとしてはちょっと屈辱かもしれませんが、VFX要素が少なめであったこと。山崎貴さんといえばね、最後に「監督・脚本・VFX」という表示を出すことで有名なんですけれど、今回ももちろんその自慢のVFX要素はいくつかありましたけれど、特に目立ったのはオープニングでグライダーを飛ばしたあとに広がる空から見たその当時の東京の光景とか、東京オリンピックジェット機や電車程度でわりと今回は組まれたセットで、昭和の感じを出そうとしている努力は見られました。過去2作はVFXで作った背景や街並み多め且つ映像と役者さんの色合いの不釣合いでガックリしていたのですが、そういうシーンもほとんど見られなくてよかったと思います。ただ、やはり監督的にはもっとVFXを駆使した作品にしたかったのでしょうね。あの則文が菊池を投げ飛ばしてからの鬼の顔になるまでの一連の映像。出たぁ〜VFX!!って思わず苦笑いです。
というわけで、全体の印象はいろいろ言ったけれど、これまでに比べたら2割増しぐらいのレベルでしょう。それで僕なりに山崎貴監督のこれまでの作品を振りかえってみたのですが、この方は凄い目の付けどころはある方なんですよ。たとえば、「BALLAD」や「もののけ島のナキ」は内容はどうあれ「アッパレ戦国大合戦」や「泣いた赤鬼」など元になっている作品は僕もたいへん好きな作品ばかりですし、こういった作品のすばらしさを世に伝えたいという努力は買うんです。けれど、以前「もののけ島のナキ」を酷評したときにも書きましたが、本来で充分なものに余計なものを加えるから、本来を知っている人は凄い疑問に残る部分が多くなってしまっている。でも、原作を知らない人からすれば、忠実に原作どおりに進行している基盤は守られているから、当たり前のように感動するし、一般的には話題も呼ぶんですよね。だから、この方は調味料でいうと“味の素”みたいな人なんですよ。用意された美味しい料理のレシピどおりに作って、そこに自分のアレンジで味の素を振るんだけれど、そんなもの加えなくてもおいしい料理だし、正直足したかどうかでの違いが分からないんですよね。それに、味の素だけをペロリと舐めてみると、「・・・あれ?マズくね?」ってなるんですよ。経験ない方、味の素舐めてみてください。あんなに料理にかけると美味しいものなのに、単独で舐めると物凄いマズいですから。まぁ、僕はですけれどね。実際料理するときに使うし。以前、僕ツイートしたんですけれど、ALWAYSは評価がどうであれ世間的には大ヒットした映画です。しかも昭和の懐かしい風景を自慢のVFXで再現してみせて、その時代を生きた大人たちを感動をさせましたよ。そのあと「クレヨンしんちゃん アッパレ戦国大合戦」を「BALLAD」と名前を変えて制作しましたが、草磲くんの一連の騒動の影響もあってか興行収入的には振るわなかったみたいですが、次の「SPACE BATTLE SHIPヤマト」は、その年を代表する映画になり、そして昨年の「Friends」では感動の渦に巻き込んでますよ世間を。この4作品を振りかえって、あくまでも僕の推測ですが「昭和の懐かしさを体感できる映画づくりができる」「VFXが自分の映画製作において最高の武器である」「原作をより良いものにして世に出す力がある」「クレヨンしんちゃんという実写化が難しいアニメも実写化ができた」この4つの思考が山崎監督の頭にもしもあった場合、彼はそのうち「オトナ帝国の逆襲」の実写化を計画するような気がするんですよね。勝手な憶測で申し訳ないんですが、絶対に止めていただきたいですね。