映画「ガール」評


【映画紹介】
奥田英朗による短編小説集『ガール』を1本の映画として実写映像化。大手広告代理店に務めながらも年齢による女性らしさの壁にぶち当たる由紀子、旦那より稼ぎが良いことと部下の男性に完全に舐められていることに苦戦する聖子、結婚願望を失いかけたところに一回り歳の離れた新人社員への思いに葛藤する容子、そしてシングルマザーとして人の力を借りないように子育てと仕事を両立させる孝子。それぞれ悩みをかかえた女性たちが友情を通して、女性としてたくましく生きていく姿を描いた群像劇。監督は『神様のカルテ』『洋菓子店コアンドル』の深川栄洋、脚本に2011年版『あしたのジョー』などの篠崎絵里子。4人のヒロインを香里奈麻生久美子吉瀬美智子板谷由夏が演じ、向井理上地雄輔要潤加藤ローサ、壇れい など豪華キャストがわきを固める。
【予告動画】

月曜のレイトショーなら、誰もいないだろうと観に行ったんですが、女性2,3人組のグループが5組もいて、そのなかで男ひとりは大変孤独でしたが、そんなことも、いい意味でも悪い意味でも(逆かな?)、忘れさせてくれた作品です。
 今回は「映画としてダメ」「凄い良かった」「最悪な部分」と、暴言と絶賛が交互に出ます。文章のまとめ方としては、はっきりとヘタな文章になっています。ご勘弁ください。
 まず、原作の奥田英朗さんの小説は今回の4人のエピソード+1の短編集で、それぞれの話は独立しているんです。それを1本の映画として成立させるため、4人のエピソードのヒロインたちに友情を作った構成なのですが。
 1本にしたというより、寄せ集めただけで、4人を切り離しても、小説同様に独立したものになっていて、もっと言えば4人が集まるシーンの存在意義がほぼありません
 4人のうち誰か1人が悩んでいて、3人の誰かの助言や行動にヒントをもらい、自分の行動に活用されるでもなければ、誰かが誰かのエピソードに立ち入って、物語を掻き回すわけでもない。4人の集まりが、「はい、集合〜。じゃあ状況報告して〜。」「なるほど〜、わっかりました〜。たいへんなんですね〜」「じゃあ、これからも頑張ってぇ〜、解散〜。」みたいな風にしか見えなくて、助言したと思いきや、「いや、私は!」って結局、反論して我を通すだけで。相談している感もないんですよね。
 たとえばですが、由紀子(香里奈さん)が、素人をモデルにファッションショーをやる展開があるんですけれど、その素人モデルのなかに容子(吉瀬美智子さん)の会社に勤めているOLが参加しているとか。簡単なところだと、由紀子の彼氏・蒼太(向井理さん)は、聖子(麻生久美子さん)も知ってる人なんだから、聖子と蒼太の会話シーンがあっても良かったと思います。さらに蒼太と、聖子の妻である博樹(上地雄輔さん)は、船舶の研究と、音響機器という違ったジャンルとはいえ、なにかに夢中な男性二人なんだから、この2人が会ったらマニアックな話になって、物凄い仲良くなって、それを見た女性たちが「男って本当に変わってますね〜」みたいな展開があったら、全然許せますよ!そうなんです!男はこうなんです!ごめんなっさ〜い!って気持ちよく笑顔で映画館を出られました。
 4エピソードを1本にした意味がないので、1本の映画にした点では格段に減点なんですが、エピソード1つ1つを観ると、4つのエピソード中3エピソードは、先の展開が気になるぐらい食いつきましたし、感情移入もできたんですね。1エピソードずつ評価しようと思います。


【平井孝子・・・・・・90点】


板谷由夏さん演じた平井孝子のシングルマザーのエピソードは、相当良い出来でした。子どもが逆上がりできない。教えてあげたいけれど、自分もできない。教えるために自分ができるようになる。練習してたら、同じ会社(かな?)の男性(TEAM-NACSの森崎さん)が、教えてくれる。そして、できた瞬間に子どものようにハシャいで、そのまま嬉しそうに職場に戻るシーン。そのあと、今度は子どもに教えて、またできた瞬間に喜ぶ。この2つのシーンは、流れとかまったく一緒なんですが、ちゃんと対比になっていて、凄い良かったです。
さらにそのあと、今度はキャッチボールを暗くなるまでやるんですけれど、公園の電灯も点いてないから真っ暗という状態を観ている僕らにも同じにすることで、そのあとの会話のやりとりにも説得力が増すんですよ。ここも凄い良かったです。なので、正直言ってしまえば、孝子のシーンだけ観たいっ!っていう気持ちですね。


【小坂容子・・・・・・70点】


 小坂容子のエピソードも、唯一のコメディ的展開で嫌いじゃない、むしろ好きなほうです。カッコイイ新人(林遣都さん)が入って、それを争う醜い女性たちの会話のやりとり。特に、別の部署から広報の人がやってきて新人インタビューを食事しながらゆっくりしたいって言ってきて、そこからの舌戦とかは面白かったですね。投げたら打ち返され、じゃあこういう変化球はどうだ、残念それにも対処してますよ〜みたいな。で、それを容子が一括したら、それを変に噂をしはじめる部下たち、「うわぁ〜、人間ってコワイわぁ〜!」っていうね。
 さらに、その広報の社員と新人くんが2人でいるところを目撃しちゃって、それを誇大妄想しちゃって必死に後を追うんだけれど、その妄想に対して容子が「私だってそうするもん!」って言いながら走るところとか、ここは思わず吹きました。
 そして、賛否両論あると思いますが、終盤にある展開があって、それを冷静に対処して、エレベーターに乗るんだけれど、エレベーターに乗った瞬間、大はしゃぎする。でもその声が外にも漏れていて、エレベーター外側にいる人がドン引きする展開も、彼女のパートがコメディ的と考えれば、全然アリだと思いました。あえて言うなら、容子がエレベーターではしゃぐ姿とか、外の人が引いてしまう顔とかをハッキリ見せないで、一連の流れすべてを会社の玄関口もしくはエレベーター外側からのワンショットにするべきだったかな?というのが正直な気持ちです。


【武田聖子・・・・・・20点】


 聖子の部分は、良い部分、悪い部分が2:8ぐらいの比率でした。良い部分は、今井を演じた要潤さんに尽きます。女性をナメてるっていう設定なんですけれど、男の僕の立場からしても、本当にムカつく奴でこの今井という男は、この今井のヒールっぷりを完璧に演じてみせた要潤さんは、もう絶賛します。僕たちをこんなにイライラさせてくれてありがとう!そして映画終盤にスッキリさせてくれてありがとう!って感じでした。このヒールは本当に素晴らしかった!
・・・ただね。このヒールさが程好いわけでもないんですよね。たとえば、いきなり最後のほうの話をしますと、大事な幹部が集まったプレゼンのときに、上司である聖子に、公然で恥をかかせたり、上司と女性社員のプレゼンに野次を入れたりとかしてて、これ僕が幹部だったら、「どうでもいいけれど、お前らチームとしては最っ低だな!」って言ってやりたい!今回このチームがやってるのって、会社だけでなく町の復興もかかってるようなプロジェクトなのに、こんなギスギスした部署に任せられるか!このボケ!って感じですよ。
でね、そのあと今井に「賭けをしましょう」と、聖子が言い出し、表か裏か外れたほうが会社を辞めるって言ってコイントスをします。でも、今井がオロオロしてるのに、「男と仕事がしたいなら土俵にでもあがれ!どこにでも女はいるんだ!」と打ち負かすみたいなシーンがあり、このパートの物語は終幕するんですけれど、この聖子って女、人には表か裏か選ばせて選べないからって文句言うくせに、自分は表か裏かは言わないのな!あそこは「言わないなら、私が決めるわよ!」とか言って、今井が「やめろ!」とか言ったら、そこでさっきのセリフを言えばいいだろ!一方的に賭けにのせておいて自分はのらねぇのな!泥船にタヌキが乗って「ウサギさんも乗りなよ〜」って言ったら、ウサギが「あっ、いいです。いいです。(だって、泥船だもん)」みたいな!相当卑怯な女ですよ!
だったら、これが良いとは言いませんが、僕の考えたシナリオは、幹部が集まる会議の前に、その前のプレゼンをやって、そこで打ちのめして、コイントスで「あなたが勝ったら、あなたのプロジェクトでやりなさい。私は会社を辞めます。私が勝ったら、私のプロジェクトでいきます。あなたは会社をやめなさい。」で、「女をナメるな」発言があって、今井が参りましたぁ。スイマセンでしたぁ〜。で、幹部の前でのプレゼンで一丸となってプレゼンをして、ガッツリ握手にすればよかったんじゃないかな?もしくは、今井がどうやら奥さんにも冷たい態度をとっているという伏線があるんだから、ある日聖子が旦那と買い物していたら、奥さんに非常に優しく接している今井の姿がありましたとさ。とかね。
さらに、この聖子に関しては、旦那である博樹とのやりとりも不満ばかりで。聖子が自分の実家に帰ったときに、子どもはどうするの?的な話になって、「私が妊娠したら、誰がマンション代払うんだ」って、小声でつぶやくんですけれど。そのあと、ベッドで寝ようとしたら、博樹が音響機器に夢中になってるんですけれど、そのときに「今日はそんな気分(ニャンニャンする)じゃないの?」って漏らすんですよ。お前どっちなの!?Hもしたぁ〜い、でも子ども欲しくな〜い。ってどんだけワガママだよ。そんな都合良い愛撫あるか!愛撫するときは妊娠する覚悟があるつもりでしろ!
そして、今井とのコイントスなど一連のやりとりのあと、半べそかいて帰ってきた聖子が博樹に「奥さんの方が給料高いってイヤ?」「子どもほしい?」などいろんな質問をぶつけるんですけれど。それに対するまとめの回答が「いやじゃないよ」って返しますが、「子どもほしい」に対して「イヤじゃないよ」はQ&Aが成立してないだろ!それにね、「この嫌じゃないよ。」もその前からのシーンで植えつけられた、マイペースな旦那という性格のせいで、「べっつにぃ〜、オレは気にしてましぇ〜ん」にしか聞こえないんですよ。だったら、いろいろ聖子が「奥さんのほうが給料高いって」とか「子どもほしい」とか飛ばす質問をしてるのを、断ち切るように「僕は聖子ちゃんが笑ってくれればいいよ」とか言えばよかったんじゃないでしょうか?
 中盤で、聖子が会社の愚痴を機関銃のように言いまくるのを、キスで止めるというのはよかったですけれどね。女性側が熱くなっているのをキスで止めるといえば、「SPACE BUTTLE SHIP ヤマト」のとんでもないキスシーンがありますが、あれに比べたらね、この聖子と博樹には夫婦というしっかりした愛情関係があるわけですからね。ヤマトは酷かったな〜・・・。


【滝川由紀子・・・・・・1点】


 前述したように、4エピソード中3エピソードは食いついたと言いましたが、この由紀子に関しては、食いつきもしないし、いいところがほとんどねぇっ!
まずオープニングからビックリしたんですけれど、撮影所みたいなところで、由紀子がメイクの指示とかしていて、廊下を走っていると、みんなが振り向いて由紀子に対して「かわいい〜!」とかって言うから、カリスマメイクアップアーティストなのか、若きモデル事務所の社長なのか、それとも業界では知れ渡った人なのかと思ったら、広告代理店勤務しかも、そんな偉くない?って、えっ、あのオープニングはなに?もうこの時点でモチベーションが下がってしまったのですが、他3人のエピソードでなんとか持ち直しましたよ。

このエピソードは由紀子だけじゃなくて、他の登場人物も不快で、特に光山晴美(壇れいさん)っていう女が、マジ突き飛ばしてやりたいくらいキツいし、それにデレデレしている取引先の会社の幹部(段田安則)も最悪だし、会社自体がとんでもなくブラックなんですけれど、これは後述。そこに唯一冷静な部下として、安西博子(加藤ローサさん)がいるんですが、先に言っておくと、今回のこの商談はどちらが上の立場かって考えたら、明らかに博子たちなんですよ、博子は由紀子にとって大事な顧客だし、怒らせてはいけないんです。そのルールも一切無視でした。
たとえば、博子が由紀子に初めての商談のときの服装を「そちらの会社は自由なんですね」みたいなことを言うけれど、それをイヤミと捉えるんですね。違うでしょ!どんな服装が自由な会社でも大事な取引先との商談には普通、それなりの格好でくるだろ!せめて、聖子みたいな、ちょっと派手だけれど、しっかりとスーツ着て来いよ!由紀子はそれなりの格好していたけれど、「これでも派手なのか」って思うとか、光山に関しては完全に顧客をナメてるんですよね。でね、そのあとの接待で博子と口論になって怒らせたことで、プロジェクトから由紀子は外されたんですけれど、そのあともしつこく、博子に会いに行ってて。お前外されたんじゃねぇの?どれだけ自由なのこの会社?って感じで。
それで、終盤に飛んじゃいますけれど、先述した素人モデルがどうやら数が合わないと、で、博子が憤慨しちゃうんですよ「だから、プロをやとえばよかったんだ!」そしたら光山って馬鹿女が「あなたが出ればいいじゃな〜い?」なんて。お前、ホントどの立場で言ってんだ?年齢はずっと下とはいえクライアントだぞ?とか思ってると、案の定、博子が「馬鹿言わないでください、彼女(由紀子)が出ればいいじゃないですか!」って、もうこの時点でわかりますよね。これはクライアントである博子が出した立派な指示です。下の立場の人は引き受けなければなりません。そしたらなんと、光山が得意のブリっ子で彼女の上司に媚売って、そしたら上司が「キミ、ここで君が出ないと君の責任にもなるんだよ!」的な発言して。まさかのパワーハラスメント〜〜!!!しかも、そのモデルの穴は、この上司が作ったわけですからね。最悪ですよ、このブラック会社博子さん辞めたほうがいいです。この光山の博子に対する一定の「そんな無理しないで、あなたも本当はこうなりたいんでしょ?」みたいな上から目線とか本当にムカムカでした!
そのあと、博子がメイクアップしている最中にネガティブになってしまうのを由紀子が声を荒げるんですけれど、このさぁ、声を荒げることで、相手の論を弾圧する方式。僕のなかでは「うるさぁ〜い!方式」と呼んでいるんですけれど、もうやめてくれないかな?これは映画に限らず、日常でもね。
で、いざ本番になって、博子がエスカレータの上で後ずさりしちゃうんですけれど、そこでの由紀子の「魔法を信じて」に関しては、小声で「バーカ」って言ってしまいました。でもね、絶対そうなると思いましたけれど、ここで博子が魔法にかかっちゃうんですよ。もう「アホくさ・・・」って感じで。
それでこれは、加藤ローサさんのことを悪く言ってしまうみたいでイヤなんですが、もちろんローサさんは一生懸命、地味な女性を演じていますが、メイクする前から、メイク映えする人っていうのがわかってるのが勿体ないですよね。だって、ローサさんはもともとモデルさんなんだもん!あそこはモデルのイメージがなければ、普段別に派手な役をやらない女優さんとかがやったほうがよかったと思いますよ。たとえば、谷村美月さんとか、本仮屋ユイカさんとか、もっと大げさに女芸人さんとかでもよかったですよね。モノマネタレントの福田彩乃さんとかね。あと、男女に限らず、メガネを外すと実はイケてるんです。っていうのはもう飽きたんで、止めてください。逆に僕はね、聖子(麻生久美子さん)が仕事のときはメガネを掛けているところに、悶えたぐらいです。

で、この由紀子が全体のヒロインであることで、彼女のナレーションが劇中で何回かあるんですが、そのほとんどが年を取るのを恐れた女の戯言にしか聞こえない。特に3つ、鼻につくのがあって、「男の人生はプラスだが、女の人生はマイナスだ」って随分あなた男のすべてを知っているかのような言い方しますね。男にだってマイナスなところがあるし、それが女性にとってはプラスになる部分があるの!次に、由紀子と聖子の大学の卒業生の会合のときに、母親になった同級生が、愚痴をこぼすんですが、そこで聖子が「人生の半分なんてブルー」だよ。って言うんですよ。このセリフは男性にも通用する言葉だし、凄い良い言葉だなと思っていたのに、そのあと由紀子がその言葉を応用するんですけれど、「人生の半分はピンクで、もう半分はブルーだ」って余計な一言くわえちゃって台無しにしちゃうんですよ!森進一かお前は!そして、今回の映画のテーマなのかな?「100回生まれ変わっても、100回とも女がいい」。うん、うん、なるほど。言いたいことはわかるけれど、お前まだそれ言える立場じゃないよね。そういうのっておばあさんになって人生の終りを迎えるころに言う言葉だよね。老いも知らねぇくせに、勝手なこと言ってんな!って話ですよ、まったく・・・。
 で、最終的にはそんなワガママな自分をすべて受け入れてくれた蒼太のプロポーズにも「こんなシチュエーションじゃイヤ!」とかヌカしやがって!お前、一生結婚しなくていい!最後には孤独になれ!って念じてしまいました。なんで1点かというと、「僕たちは世界を変えることができない」のときの、向井理の死んだ目がまた観られたからです。


【総合】


 由紀子と聖子に対する文章が特に長いことからわかるように、せっかくの良い部分をこの2人のエピソードが台無しにしてるって感じですかね。しかも冒頭で語ったように、1本にした意味がほとんどない。それでも孝子と容子のエピソードは面白かったし、要潤さんのヒールっぷりにも感銘しましたので、赤点はギリギリ免れたって感じでしょうか?