映画「ドラえもん のび太と奇跡の島〜アニマルアドベンチャー」評


【映画紹介】
藤子不二雄の漫画・ドラえもんの劇場版の通算32作目であり、第2期声優陣では3作目となるオリジナル作品。絶滅したはずの動物たちが暮らす島・ベレーガモンド島へやってきたドラえもんのび太たちはのび太とそっくりな少年ダッケやロッコロ族のコロンたちと出会い交友を深めていく。しかし、そこに黄金のカブトムシ・ゴールデンヘラクレスを求める悪役商人シャーマンが襲い掛かってくる。キャストはドラえもん水田わさびのび太大原めぐみなどおなじみのキャストに加え、野沢雅子水樹奈々田中敦子山寺宏一など豪華声優陣。さらには俳優・小栗旬や子役・鈴木福など特別出演のキャスティングにも注目が集まる。
【予告動画】

新声優(といっても変わってから随分経過していますが)になってからは、過去劇場公開されたもののリメイクとオリジナルを交互にやってきた映画ドラえもんシリーズですが、正直リメイク版は明らかに第1期のほうが良いなっていう印象が強かったんですけれど今回はオリジナル版ということで、ちょっと期待していました。とはいえ、やはり大人にも人気があるとはいえ、所詮は子ども向け扱いのドラえもんレイトショーがやってねぇ!しかも、一番最後が17時40分から!という厳しい時間帯。仕事を定時に切り上げ、急いで映画館に向かいました(木曜メンズデー料金だったので、どちらにしろ1000円でしたが)。お客さんの入りは、まぁ平日だから満席ではありませんでしたが、やはり小さいお子さんを連れて親子で着ている人たちが7〜8組いましたね。そんななか、男ひとり家族たちに囲まれ、観てまいりました。
結論としては「すっげぇ面白かった!でも!おかしいところは山ほどある!」って感じです。ここ最近細田守さんなど多くのアニメライターさんの作品にまた触れるようになったんですけれど、今回のドラえもん作品は「大人になってから見るアニメ映画ってやっぱりいいなぁ!」って思わせてくれる内容でした!正直、このあと、悪いことも書きますけれど、それらをふまえて「観てよかったぁ!」と思いました。本来なら、前に見た『逆転裁判』の感想をダラダラ書く予定でしたが、興奮冷めないうちに書かせていただきます。そして今までの映画感想のなかでも長いと思います。
今回のドラえもんは予告でもわかるようにのび太の父親であるのび助にスポットをあてていて、これまでドラえもん作品で目立つことのなかった父親の存在を描くと、それと同時にカブトムシや絶滅した動物たちを使って、生物における人間の存在というのを描いている作品で、それが目的だとするならば、もう合格点!!と言いたくなる作品です。
まず映画はじまって10分くらいが凄い好きなんだけれど、凄い切なくなってしまいました。のび太が父・のび助にカブトムシを買ってもらうんですが、まず「カブトムシは買って手に入れる時代」というのが凄い切なくて、でもそれは今の子どもたちにとっては当たり前なんですよね。シティボーイズの「真空報告官大運動会」という舞台のDVDがあって大竹まことさんのセリフにこんなものがあります。「誰かにとっては意外でも、誰かにとっては当たり前である」もう今回のテーマこれでいいんじゃねぇの?ぐらいにそういうシーンが今回多いんですよ本当に。
カブトムシを買ってもらって喜ぶのび太。するとそのときに父から見たのび太に対する本音というのが出るんですね。「お前はいつもドラえもんに頼ってばかりじゃないか」と。すると、のび太普段あまりものを言わない父親から、そんなことを言われると思わなかったからハッとするんですね。そして普段もの言わぬ人の意見って凄い貴重だから大事にしたくなるんですよね。のび太はのび助が思っている以上に「約束するよ!」って強く言うんですね。そしてそこで指切りをするんですけれど、それをまわりの人たちがニコニコと見ているんですよ。「指切りなんていつ以来やってないのかなぁ〜・・・」なんて思いに浸ってしまいました。
ここだけでも充分良いのに、そのあとですよ。空き地でジャイアンやスネオが虫ずもうをやっていて、のび太も加わるんですけれど、案の定ジャイアンの持っているカブトムシのほうがデカくて、のび太のカブトムシ(カブ太)は何回やっても負けて、スネオは「どうせ300円のスーパーで買ったやつだろ!」ってバカにするんですね。すると今度は、のび助がムキになって参加するんですけど、カブトムシはカブ太のままだから、結局負けちゃうんですよ。また、そのときカブ太を突きながら「のび太がんばれ!のび太がんばれ!」って言うのが凄くいいんですけれど。でね、そのあとのび助は「暑いから家に帰ろう。・・・・・・それに虫がかわいそうだ。」ってサラッと言うんです。つまり、これって子どものころ夢中になっていた虫ずもうというものに対して大人になってわかったことなんですよね。で、この一言のあと、ジャイアンでもスネオでもしずかちゃんでもない、ちゃんと名前もついてないようなのび太の友だち2人が、ハッとするような顔をするんですよ。「確かにそうだ。これは虫たちをいじめてることになるんだ」って気づかされるんですよ。なのに!なのにぃ〜!のび助が先に帰ったあとに、ジャイアンとスネオが「お前の父ちゃんは逃げたんだ!」とか「父ちゃんものび太そっくりだな!」とかバカにするんですよ。つまり、ジャイアンとスネオ、もしかしたらそれを止めに入った出来杉くんまでもが、大人であるのび助が言ったことを理解していないんですよ。本当に言い訳をして逃げたと思っていて、もう観ていて、「悔し〜いっ!!切ないぃ〜っ!!」ってなっちゃって。目の前で父親がバカにされるのび太もかわいそうだし、大人のメッセージを受け取ってもらえないのび助の気持ちも重なって「あぁ〜辛いよ〜〜!でも、すごいいいシーンだよ〜!」」ってもうこのオープニングだけで、この映画は観た甲斐がありました!
で、父親視点といえば、今回の作品映画を観ている父親たちにも結構な気遣いがされているんですよ。実際観に行った日の僕以外の観客のほとんどは、子どもを連れたお父さん、もしくは両親という組み合わせだったんですね。不思議と、お母さんと子どもという組み合わせは見かけなかったですね。おそらくテレビとかでやっている予告を観て「これは父親と観に行くべきだ」と判断したご家族が多かったんだと思います。で、年齢層を観ると、子どもはまあ園児かなって子が多くて、父親は30代前半ぐらいが多かったんですけれど、たぶんこれぐらいの世代ウケを狙ってるのかな?っていう描写がいくつかありました。
今回の作品、子どもの頃ののび助が、間違いで動物を保護する奇跡の島に連れて来られちゃって、わすれんぼうという道具のせいで記憶を失ってしまって、ダッケという少年になるんですけれど、このダッケが起こすアクションが言ってしまえば、ひと昔前の漫画の動きなんですよ。たとえば、身をひそめながらゆっくり四つんばいで歩く、するといつの間にか地面じゃなくて空中を歩いていて、気づいた瞬間にワァ〜!って落ちるとか、「うわぁ〜、ベタ〜。しかも古典的ぃ〜笑」みたいな。で、そのあとジャイアンとスネオと一緒に動物に追いかけまわされるんですけれど、逃げる前にまず空中で足をバタバタさせてから逃げたり、高い木に登ろうとするんですけれど、ジャイアンとスネオは普通に登るのに対して、ダッケはまるで壁走りのように木を駆け上がるんですよ。それを見てジャイアンとスネオが少し不思議な顔をするんですね。つまりこれって、ちょっと前はベタだったけれど、今は凄い懐かしい漫画やアニメの演出なんですよ。で、それにビッシリはまるのが今幼稚園ぐらいの子どもをもつ父親世代なんだと思うんですよね。さらに今回そのダッケの声を担当しているのが野沢雅子さんというのがまた良かった。つまりドラゴンボール孫悟空とか、ちょっと上の世代だと銀河鉄道999の星野鉄郎を演じていた人が、目の前のスクリーンでキャラは違えど登場してくれるという、このキャスティングは絶対大人ウケ狙っただろ!って感じですよね。つまり、大人にも退屈させない、むしろ大人こそ引き込まれるつくりがちゃんと出来てるんですよね。いやぁ〜、作り手偉いなぁと思いました。
描写といえば、今回要所要所にあらゆるものの大きさが比較されるようなつくりがあるんですよ。さきほどのオープニングでいえば、のび太ジャイアンのカブトムシもそうですし、スモールライトとビッグライトという大きさを変えられる道具もそうですが、東京タワーとスカイツリーとか細かいところ、よく探せばもっとあるかもしれませんけれど。で、そういった大小がなにを表しているのかというと、まずは今回ののび助とのび太のような親子の存在、子どもにとって親は大きくて、親からすれば子どもはいつまでも小さいくかわいい。そしてもうひとつは、大きいものの強靭さ、そして弱いものの儚さっていうのを描いている気がします。それを描いているシーンがひとつあって、動物に追い掛けまわされたジャイアンドラえもんタケコプターを足でグシャッと潰しちゃうんですけれど、それを一切気にとめないんですね。これって、人間と虫、もっと広く言えば、人間と人間以外の生物の関係に似ているんですよ。人間はあっさり虫や草花を踏みつけているけれど、それってかけがえのない生命体を確実に減らしていることだろうと。それが冒頭でのび助が言った「これ以上やったら虫がかわいそうだ。」にダメ押しで結びつくんですよね。細かいところに工夫をされているなと思いました。
そのあと、のび太やダッケたちが民族の人たちと仲良くなって、食事のあとコロンという長老の孫で民族のなかで一番おさない子がいて、その子がのび太の持っていたカブトムシを珍しがって、自分の虫と交換したがるんですけれど、のび太は父親と大切に飼うという約束があるから、それを拒むんですけれど、ダッケやコロンから見れば、頑固に譲らないやつに見えるんですよ。そして、ついにはコロンが怒鳴り泣きわめいてしまって、のび太はダッケに「お前小さい子を泣かすなんて、ひどいだろ!」って言われてしまうんですよ。ダッケは理由を知らないから仕方ないんですけれど。でもね、そのあと一方的にのび太を怒るんじゃなくて、ちゃんとコロンのことも叱るんですよ。このシーンが僕はけっこう好きでしたね。もう今の世の中のすぐに「○○派」とか賛否、敵味方の2つで極端にわけてばかりの僕らに対する、どっちにも怒っていいんだ。どっちも褒めていいんだ。だってどちらにも是非があるんだから。っていうメッセージだと思うんですよね。
個人的に好きというシーンは他にもあって、中盤でそれぞれの親に対する不満を吐露しはじめるんですが、でもそれが親だし一緒にいると楽しいんだよっていう展開になります。そこでスネオのエピソードで、小栗旬さんが声を担当した甘栗旬という俳優が家に遊びにきたという話があったあとに、のび太のお母さんとお父さんが家でテレビをみているシーンが一瞬出るんですよ。そこで甘栗旬が出ているドラマだと思うんですけれど、その内容が久しぶりに親のもとに帰ってきた子どもという設定というのが、僕みたいな親がいなくてもそれなりに自立して生活している人間には物凄い胸をうって、単純にゲスト声優をチョロっと出すんじゃなくて有効的に使っていたというのも凄い評価しています。
あと、後半スネオたちが囚われちゃってシェルターみたいなのにコロンちゃんと彼女がかわいがっているドードー鳥、そして絶滅動物を保護する博士と一緒に入っているんですけれど、そのときに「きっとドラえもんが助けに来てくれるよ」とか言うんですけれど、そのときにさり気なく「のび太はああみえて、やるときはやるやつなんだ」って言うんですね。しかも、これのなにが僕好きかって、ベタな作品だったら、ここで妙にいい音楽かけてゆっくり話させるんですけれど、今作では本当にサラリと言うんですよ。妙にいい音楽でいいこと言ってそうに言わせるより、早口でペラペラしゃべったときに出た言葉のほうがなんか本音っぽく聞こえるんですよね。で、こういう役割って今までどちらかといえばジャイアンが担っていて、スネオは本当に「帰りたいママ〜!」ばかりのやつだったんですよ。で、スネオってはっきり言って、のび太に対する冷たい扱いかたをしているという点ではジャイアンよりも上なんですよ。ジャイアンは映画でもあるように、なんだかんだでのび太を心の友扱いしているわけじゃないですか。でも、スネオはそういう態度はこれまで示さなかったんですけれど、今回はスネオが凄いかっこよかったですね。そういえば、今回スネオは「帰りたい〜!ママ〜!」って言わなかったですね。予告ではありましたけれど、いわゆるフェイク予告ってやつですね。まだ映画を見てない皆さんに言っておきます。上の予告映像はほとんどフェイクですよ!
あと思わず笑ってしまったシーンもありました。まずは今回のゲストキャラであるゴンスケドラえもんをパワーハンドみたいなので乱暴にタイムマシンに乗せるんですけれど、そのあとのパワーハンドの圧力でド若干へこんだドラえもんの体とか。終盤で悪者たちに襲われて逃げ回ってゲッソリしたドラえもんに対してしずかちゃんが放つ「2,3ミリ痩せた気がする」とか。思わずクスッとしちゃいました。
と、このようにたいへん印象的なシーンが随所に散りばめられていて、悪い部分やおかしな部分は全然なかったです!!・・・って素直に言いたかったんですけれど。凄い良い!って思うシーンがあることに反発するように「全然ダメじゃん!」って思う部分も、わんさかあったんですよ!残念なことに!!
第一に全体的にドラえもん秘密道具の扱いかたが雑すぎます。まず「桃太郎印のきびだんご」、どんな動物でも言うことを聞くようになる道具なんですけれど、あれ投げた人じゃないと効果ないんじゃないのかな?明らかにドラミちゃんが投げたのに、ドラえもんにも懐いてるんですよね。ドラミちゃんといえば、声が千秋さんになってから、無理やりはめ込み過ぎなんですよドラミちゃんを。今回もドラミちゃんわざわざ登場させなければ、ドラえもんが投げることできたわけですしね。
「わすれんぼう」ものび助が記憶がなくなってダッケっていう名前になるきっかけにはなるんですが、最後の最後、ダッケとのお別れのシーンで、この世界の記憶が残ってるのは困るから、ドラえもんが別れ際にコツンって叩いて、記憶を失う前の状態に戻す展開になって、流れ的にはいいんですけれど、のび太の目の前でそれをやって「あれ?君は誰?」って言わせるって、ちょっと酷じゃないかな?わずか数日とはいえ、貴重な体験をした同士なのに、それが目の前で一瞬で自分のことも忘れてしまうって、小学生には結構きついだろ。たしかに、そこでのび助って名乗るから、のび太が父親だということに気づくっていう流れになるんですけれど、もう少し違うやり方あったんじゃないでしょうか?
あと、「ほんやくこんにゃく」という食べた相手が、自分のしゃべっている言葉と同じようにしゃべることができるという道具がありまして。僕この道具に関しては、出てきたころからの疑問なんですけれど、急にコンニャク出されて食えって言われて食うやついるか!?って思うんですよ。この疑問に関しては「さまぁ〜ず×さまぁ〜ず」で大竹一樹さんもおっしゃっていたんですけれど、「じゃあ断られたら終わりだ。」って。そしてら三村さんが「いや、犬とかにやるやつだから・・・外人とかじゃない」ってフォローするんですけれど、実際に昔のドラえもんで外国人に食わせるシーンがありますからね!確かに犬とかだったら与えられたものは食べちゃうかもしれないけれどさ、今回に関してはどこの民族だかわからない言ってしまえばバナナとかドラゴンフルーツとか自然のものを食べて生きている人間ですからね。さらに、食べるシーンを今回ばっさりカットしちゃってるんですよ。いつのまにか普通に話していると。しかもですよ。ダッケはすでにそこの民族たちと出会っていて、なんとか自分の力で言語理解してコミュニケーションとっていたのに、急にまわりのやつらが、普通に会話しはじめたらビックリするだろ!大体、ドラえもんという人間でもなんでもない未知なるものがそこにいるわけだし。あそこでもう1回「青いたぬき」発言があっても良かったと思います。
そして、スネオたちが囚われの身になったところを助けに行こうとして、のび太ドラえもんに道具を出せと頼るところに、しずかちゃんが「なんでもかんでもドラえもんに頼るのび太さんなんて嫌い!」みたいなことを言うから、道具なしで行くのかな?と思いきや、結局お前ら道具頼ってるじゃねぇか!!一緒についていった民族のひとが「いやぁ〜、ドラえもんの道具は凄いですぅ!」とか言うんですけれど、それ言っちゃさっきのシーンがまったく意味ないでしょうが!!あのセリフをどうしても言わせたいのなら、今まで道具に頼らずに生活していた普通の人間であるダッケ(のび助)が別れ際にのび太に一言告げるとかでよかったでしょ。そしたら冒頭でのび助が言ったセリフと重なるわけですからね。普段から道具に頼っているしずかちゃんとかジャイアンに言わせても説得力ないですよ。さらに、ドラえもんの道具もないってなって、民族の人たちに道具がないかを聞くんですけれど、戦争を経験ないから、そんな道具はないって言うんですけれど、ちょっとそこは説明過多かな?あそこはシンプルに「そんな道具は作ったことも使ったこともありません」でよかったかなぁ〜。そしたら子どもたちになんで戦う道具がないんだろうと自分たちで考えさせることもできたわけですし。
そして、今回鈴木福くんとか、小栗旬さんがゲスト声優で出ていますが、真のスペシャルゲストはゴンスケなんですよ。ゴンスケってさまざまな藤子不二夫作品にでているファンにはおなじみのキャラクターでね。あの田舎訛りのとぼけたしゃべり方とかで凄い親近感沸くし、言ってしまえば、スターウォーズにおけるR2D2みたいなやつなんですよ。だから、そのゴンスケがついに映画ドラえもんの世界に出てくると。予告の段階で僕は凄いわくわくしていたんですけれど、全然活躍してなかった!!まぁ、彼のせいでのび助は連れて来られちゃうわけですし、なんの活躍もしないのがゴンスケなのかもしれませんがね。だったら予告であんなにバンバン出す必要なかったかな?完全に期待はずれでしたね。
とまぁ、長々と書きましたけれど、こんだけ熱量がある文章を書くことが出来たのは久しぶりでした。『逆転裁判』の感想があまりに貧相なものにならないか少し不安です。それくらい僕にとっては素晴らしい作品でした!!