映画「劇場版 テンペスト」評


【映画紹介】
池上永一の同名小説であり、舞台にもなった作品「テンペスト」をNHKがドラマ化したものを再構成し3Dで映画化。19世紀の琉球王国を舞台に家の再興のために、女でありながら名前を改め、男性として王宮に仕えた真鶴を中心に、権力争い、日本や米国との外交など激動の琉球王国の歴史を描く。監督は吉村芳之、脚本は「風が強く吹いている」や「星になった少年」の大森寿美男。主演は舞台・テレビ同様に仲間由紀恵塚本高史谷原章介GACKT高岡早紀らが脇を固める。
【予告動画】

もうね。「私はすーごく、怒ってるんだよぉ〜!」(ももクロ)という気分です。つまらない映画はつまらない映画でも、この映画は猛毒につまらないぞ、ハァ〜〜ッッッ!!(劇中のGACKTさんが演じた徐丁垓のセリフ)って感じです。始まりから終りまで苦笑いしっぱなし。すべてが間違っている。逆に人に観せたい!もちろん、オススメしませんよ。観たい人だけ観に行ってくださいね。もし、この感想読んだあとに観に行っても、自己責任ですからね。
 まず、沖縄版の大河ドラマっていう感じのストーリーじゃないですか。主人公の幼少期から成長するまでを描いて、なおかつ現在は沖縄県となっている琉球王国の長い歴史を描いてるのでしょう。それなのに、仲間由紀恵さん演じる真鶴が本当は女性なんだけれど、宦官・寧温となって宮の役人になっていろいろあって追い出されて、そのあと真鶴に戻って側室になるまでが、物凄いあっというまに見えるんですよ。画面の切り替わりが雑だし、まず登場人物の変わり映えのなさ、そしてドラマとして何時間もかけて作ったお話をザックリザックリ切って、大事なところ(のように見えて、そうでもないところ)を2時間に無理やりくっつけてみせるという「セカンドバージン」のときにもやっていた間違いをまたやっているわけですね。映画だけ観てしまうと、追い出されたやつが、あっさり戻ってきてるように見えるから、え?琉球王国そんなに軽いの?そりゃあ崩壊するだろ!という印象を持ってしまうんですよね。もちろん、まったく変わっていないわけではなくて、寧温が去った後、黒船が襲来する展開になり、そのころには尚泰王という人物が子役から染谷将太さんになっていて、年月の経過したってことは分かります。でもね、これまで同様に時代の変わった感じが全然ないから、急に大人になっちゃったように見えるんですよね。
 物語的に大事なところも抜いています。たとえば尚泰王の時代になってから、GACKTさん演じる徐丁垓が登場して、側近という立場になって権力をふるうという展開になりますが、なんで徐丁垓が急に宮のなかで中心人物にまでのし上がったのかを出さないと、急にひょっこり出てきて、なんで側近になれるんだコイツ?っていう風に見えてしまいますよね。彼は琉球王国の弱みを握って、権力者たちを脅して、権威を得るという展開がドラマのなかではあるわけですから、そこを削っちゃダメだろ!さらにいえば、ペリーが来航して薩摩藩が奇襲をかけようとしたところに、寧温があらわれて、まあ穏便に琉球と米国の関係はいきましたと、でそのあと寧温が真鶴に変身する描写があるんですけれど、なぜ真鶴に戻らなくてはいけないのかも、きちんと描いてない。ドラマだと、もう一度役人として戻って琉球を陣取る予定だった寧温にとって、女として宮に戻ってくるのは不服なことだったはずなんですよ。でもあれだと、寧温ではもう無理だから真鶴として潜り込んだように見えるんですよね。
 もうひとつ、観ていて「えぇぇっ!?」って思ってしまったことがあって、寧温と真鶴は同一人物で、真鶴が尚泰王の子どもを産んで、それを祝っているときに実の兄である踊り子の嗣勇から公にこいつは寧温だぞってバラされて、周りの人たちが「えぇぇっ!」って驚くんですよ。いや、どう見ても同一人物だろ!!ずっと一緒にいた朝薫(塚本高史)まで「そんな・・・」ってこんなバカ共に琉球王国は守れてたんかい〜っ!それに、兄の嗣勇もなんで公にしたのかというと、裏切られたからとか言うんだけど、お前勝手なこと言ってんじゃねぇよ!てめぇが出て行ったから妹が代わりに勉学に励んだんだろうが!そのおかげでお前は自由に踊り子として生活できてるんだろうが!それを裏切り!?はぁっ!?まったくもって意味がわからない!
 まったくもって意味がわからないといえば、全体通して出てくる、高岡早紀さん演じる聞得大君ね。まず、兄である嗣勇を拷問して、寧温の正体を暴こうとしたところに、寧温がやってきて、自分は女だと告白するんですよね。そしたらその大君が、その場で服を脱いで証明してみせろ!って言うんですが。え?なんで?普通こういうときってさ「私は宦官です」って言い張るから、じゃあその場で脱いで証明してみせろだったらわかるけれど、寧温が、もう女ですって告白してるんだから、証明もクソもねえじゃん!殺人鬼が自首してるのに、その証拠は?って言ってるようなもんでしょ。で、寧温たちに裏切られて大君は追い出されて、町で遊郭になるんですが、その最中に寧温と徐丁垓が闘うんですよ。また、このアクションも溜め息つくような安っぽさなんですよね。で、終盤に崖から丁垓を道連れにして飛び降りようとした瞬間に、大君が映って「死ぬ気か!?真鶴!?」って言うんですよ。まず、あそこで大君がなんでテレパシーみたいなので二人の戦いを観ることができているのかも疑問なんですけれど、お前どっちかっていうと真鶴の敵だったんじゃね?なのになぜ「死ぬ気か!?」とか言うわけ?まったくもって意味がわかりません。
 そして最後にね。真鶴がずっと持っていた勾玉を預かったあと、龍になってどこかに行くんですが、結局この人はどういう立場の人だったの?偽者だ!って言われて、最後は龍になってしまうわけでしょ。この大君という人の物語におけるポジションが全然わからないまま終わってしまうというなんとも腑に落ちない人物でした。
 まあ、なんやかんやでラストシーン、崩壊した琉球王国の跡地に真鶴が大きくなった子どもを連れて戻ってきます。人っ子一人いないことも疑問なんですが、そして子どもを所定の場所に座らしたら、寧温の姿をして戻ってきて、「あなた様は琉球王国を」とかって今度は寧温の立場になって息子に話し出すんですよ。息子には大きくなるまでのあいだに語り継がれたのかもしれないですけど、急に目の前で自分の母親が着替えて別の人格を演じ始めたら、息子キョトンだろ。ここはさすがに鼻で笑っちゃいました。そして、一番最後に薩摩藩の相澤(谷原章介さん)があらわれて見つめあう二人の前にテロップがドンと出て「琉球王国沖縄県となった。」どうやって!!?そこが一番大事ジャン!あれだとまるで二人が同盟を結んで沖縄県誕生みたいな感じだけど、この二人ってそんなに大きな立場の人間じゃないじゃん!特に真鶴はほぼ琉球王国から追い出されたようなもんじゃん!なんでこの二人が再会して沖縄誕生なんだよ!わけわかんねぇよ!
 本当に端から端までツッコミまくりの映画でした。もうワースト確定じゃないかなぐらいのレベルです。だってつまらないというレベルでは昨年の僕のワースト1位だった「プリンセストヨトミ」以上でしたもん。染谷将太さんも出てるし、でんでんさんや二階堂ふみさんという「ヒミズ」のメンバーが出てるのにね。演出やストーリーでここまで役者の見え方が違うか!って感じでしたね。しかも、ドラマ版では二階堂ふみさんそれなりに活躍するはずなんですけれどね。映画では「火事じゃあ」って叫んで終りでしたよ。やれやれ。確実にNHKにとっても、仲間由紀恵にとっても、そしてGACKTにとっても黒歴史になる作品だと思います!